◆自然農法と有機農法の違い
◆有機農法を超えた自然農法へ!
◆あら鷲で栽培している野菜(30品種以上)
◆無肥料栽培で育てる野菜の味とは?


◆自然農法と有機農法の違い◆                                     

自然農法 有機農法
●無肥料で栽培する
 (化学肥料や有機肥料などは一切使わず、
 畑の地力のみで作物を育てる農法)
●有機肥料を与えて栽培する
●無農薬 ●無農薬
●畑で野菜は雑草(管理をしながら)と共生する
 (雑草は野菜に良い影響を与える)
●畑の雑草はほとんど取り除かれる。
 (自然界では不自然な状態)
●魚に例えると”天然もの”
●魚に例えると”養殖もの”




◆有機農法を超えた自然農法へ◆                                    

 私が20数年前にわずかな面積で始めた家庭菜園、その頃は農薬も気にしないで使っていました。
ある時知り合いからソラマメが送られてきて塩ゆでにして食べたところ薬品臭くて食べられず、
それがきっかけで農薬のこと化学肥料のこと有機について関心を持ち始めたのです。
自分のところで作った野菜をお客様に提供できたらと思い、約300坪(10m×100m)の畑を作り、
そのころから鶏を飼い始めていたので、鶏ふんを使った文字通り有機無農薬栽培をはじめました。
鶏ふんをドッサリ入れたらきっと美味しい野菜ができる!自分のところでは足りず自然卵養鶏をやっている
別海町までダンプで取りに行き、畑にドーンとやって満足していたのです。
ジャガイモが徒長して倒伏しても、一向に気にしないくらい作物のことに無知でした。
その後農業技術書を読み漁りいろいろな農法を試みました。今では畑の面積の半分を野菜作りに、
残りは緑肥作物(燕麦)を栽培して鋤き込み、地力を高めるために1年間休ませています。
土が良くなってくると鶏糞を入れる量も年々少なくなり、最後にたどりついたのが肥料無しでも野菜が育つということでした。
無肥料栽培を確信したのです。
(今後は緑肥作物もいらない土になってくると思います。)
自然界では人が肥料を施さなくても花をつけ実を結ぶのに、何故畑では肥料をやらないと育たないのでしょう。
私は有機農法では多くの問題が解決できませんでした。
そして醸成期間を経てやっと長いトンネル(21年間の有機農法)から抜けでることが出来ました。


◆農薬について――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
農薬を使うと畑の土壌菌のバランスが崩れます。(肥料を入れてもバランスが崩れる)
無農薬が人の体に優しいというのは土が健全に保たれた二次的な結果(効果)として表れるものだということ。
それが実践から学んだ私の結論です。
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◆あら鷲で栽培している野菜(30品種以上)◆                                    

ジャガイモ:8月〜翌年6月】
           メークインとその他の数品種を栽培。
           篤農家によると鶏ふんで育てるイモは美味しいといわれています。
           宿の鶏ふん(※)は品質の高いものですが、4年前に鶏ふんを入れる
           ことさえも否定する無肥料栽培に移るきっかけを作ってくれたのもこのジャガイモでした。

           鶏舎の落ち葉
             <鶏舎に入れる落葉>

           多くの養鶏場では産卵率を上げるため、餌に魚粉を使用しています。
           あら鷲ではある体験を機に15年ほど前から魚粉は使っていません。
           卵質をおとすばかりでなく、防腐剤が多く含まれているため鶏が暮らしている
           床も悪くするからです(微生物のすみかを壊す)。
           私は秋になると山に入って広葉樹の落葉を集めてきて、
           鶏舎の床に20センチほど敷き詰めます。
           鶏は足でかきまぜる習性があり、このようにして山の微生物がたくさん含まれて
           熟成された鶏ふんは非常に高い品質のものです。
           かつての有機農法ではこの鶏ふんを使っていました。
           現在では使っていません。


トマト:生のトマトは7月下旬〜9月下旬】
           生食用トマトは中玉。
           調理用トマトはシシリアンルージュ(F1)をベースに定番の
           サンマルツアーノ(固定種)とをブレンドしてあら鷲オリジナルの
           ケチャップやトマトピューレを作ります。
           ケチャップは1年分の量を確保できない年度もあります。ご了承ください。
           いずれも種から栽培します。

           トマトケチャップ
                <トマトケチャップ作り>


ニンジン:10月〜翌年6月】
           黒田五寸ニンジンを栽培。
           宿では冬の貯蔵野菜としても重要視しているので、
           人参農家はそこまで手をかけないというやり方で作っています。
           自然農法は肥料も入れず草取りも適当にして一見楽な放任栽培に見えますが、
           ニンジンの意向に沿って育てると、200本ほどでも大変なのです。
           宿のニンジンは一般のニンジン農家とはスタートから収穫まで対極的な育ち方をします。
           その結果が顕著なので下記にデータを示しました。
           3ヵ月ほど室内の日の当たるところに刻んだニンジンをビンにいれ、
           同じ条件で比較しています。市販のものは黒い液体状のものがでて腐ってしまい、
           無肥料栽培のニンジンは写真のように枯れてゆきました。
           自然界の植物も腐らず枯れてゆくそれが摂理です。


 無肥料ニンジン
 <宿の無肥料栽培のニンジン>

 市販ニンジン
 <市販の有機ニンジン>

○秋に収穫後丁寧に保存すると
  8ヶ月以上保存可能。

○長い間保存することが不可能
  (野菜に生命力がないからです)

○肥料を入れないため
  生育期間が長く細胞が緻密。

○肥料を与えると早く成長するため
  細胞の密度が粗い。



カブ:6月〜11月】
          小カブはいろいろな料理に使います。また千枚漬け専用の品種で千枚漬けを作ります。


玉ねぎ:8月中旬〜翌年6月まで】
           昔の畑         現在の畑
            <かつての有機農法の玉ねぎ畑>                  <現在の玉ねぎ畑>

           左の写真にはほとんど雑草が生えていません。一見良く管理された畑に見えます。
           玉ネギに注目してください。玉が肥大期になっているにもかかわらず、
           雑草取りが行われています。草取りをしていいのは玉がラッキョ状の大きさになるまで。
           それ以降は絶対に畑に入ってはだめ。
           (葉を折ると生理障害を起こし病気にかかりやすくなり、根の踏み固めは玉の肥大を悪くする)
           再び雑草が生えてくるのですが、
           今度は玉ねぎの生育に雑草が良い環境を与えてくれます。
           単に雑草が肥料を収奪し、光合成を妨げるという側面だけしか見ないと、
           雑草の果たす役割が見えてこない
           宿のタマネギが常温で9ヶ月以上保存できるのも、
           また市販のタマネギに比べて味の面で突出して秀でているのも、雑草のお陰だと思っています。
           (私は畑に生える草を雑草という概念でとらえていません。
           しかし一般便宜上あえてこのことばを使いました。)

            タマネギ
                  <収穫中の玉ネギ>

           畑を見たいというお客様を玉ネギ畑にご案内すると、
           「ココは何の野菜を植えているのですか。」と聞かれます。
           背丈が1m程の雑草をかき分けないと玉ねぎは見えてきません。


ホウレンソウ:10月〜12月】
           現在スーパーに出回るそのほとんどが象耳形をした葉で洋種系統です。
           周年栽培が可能で多収性があるからです。しかし多肥栽培に支えられているため、
           葉物類全般に言えることですが、チッソ過多で育てると味が不味くなる。
           それにひきかえ在来種(固定種)のタンポポ葉(ギザギザ)をした日本ホウレンソウは
           無肥料栽培で特に真価を発揮します。あら鷲ではこの品種を栽培。晩秋にかけて旬。


ピーマン:7月〜9月】
          品種にこだわる程ではありません。


青ジソ:7月〜9月】
           家庭菜園でも作りやすく、市販のものより良い香りのものが出来ます。
           昨年度に実をつけた種がこぼれて自生しています。


パセリ:6月〜10月
           セリ科の仲間なので乾燥地さえ避ければよく育ちます。
           宿では畑ではない湿地で栽培しています。(ミツバが自生しているところ)
           新芽の軟らかいところだけを摘み取る贅 沢な使い方は、
           栽培しているからできる事です。


シュンギク:9月〜10月】
           野生の三つ葉もそうですが、胡麻和えによく合います。
           新芽の軟らかいところだけを摘み取る贅 沢な使い方は、
           栽培しているからできる事です。

            春菊
           <菊科の植物なので美しい花が咲きます(収穫後)>



レタス:7月〜11月】
           都会のマンションに住んでいる方でもベランダの片隅で
           プランター 栽培が手間いらずに簡単にできます(肥料を入れる場合は少なめにすると失敗がありません。
           結球型は腐りやすいのでお勧めできません)。自分の手で栽培した野菜が一品でもあれば、
           食生活の豊かさを実感できますので野菜作りをお勧めします。


キュウリ:生野菜は7月中旬〜9月】
           専門家が美味しいという品種を含めていろいろ植えて試したのですが、
           私はキュウリの品種で味の違いを見出せませんでした。
           むしろその年の天候で味が左右されます。
           ピクルスとして保存したり、冬場の奈良漬としても重要な野菜です。


白菜:11月〜3月まで】
           冬の鍋でお客様に提供する貯蔵野菜として重要視しています。
           白菜の収穫は寒くなってから行います。
           霜が降りて氷点下になると自らを細胞の凍結から守るため糖度を上げます。
           そのため凍れるぎりぎりまで収穫を待ちます。


カボチャ:----】
           美味しい品種のカボチャが無肥料栽培では育ちません。
           まだ土がカボチャを育てられるレベルに達していないのか、
           あるいは育つ品種が他にあるのか未解明です。(でもたぶん前者だと思います。)
           宿の鶏ふんを使ったら美味しいカボチャが簡単にできるのですが…。
           肥料を入れてまで栽培する気持ちにはなれません。


長ネギ:8月〜翌年3月】
           あまり品種にこだわっていませんので園芸店で苗を買ってきて育てます。
           この野菜も市販のものとは品質や味の面で大きな違いを感じます。


なす:8月〜9月】
           園芸店で苗を買ってきて育てます。


トウキビ:9月頃】
           いろいろな品種を育ててきましたが、まだ定まっていません。
           収穫の季節が訪れると楽しみな野菜です。
           もぎたてをお客様にお出ししています。


ニンニク:10月〜3月】
           宿で作る野菜の固定種では最も古く、平成12年に網走管内の若狭地区の
           農家から譲り受けたものを、今でも大切に連綿と種をつないでいます。
           世代を繰り返すごとに栽培法やその土地に馴染んでゆくのが固定種の優れたところでもあります。
           その他の品種では福地ホワイト6片を栽培。


枝豆:8月下旬〜9中旬】
           完熟すると黒豆になる品種。
           平成15年ころから種取りをして引き継いでいます。
           固定種にある特徴ですが、成りが一斉に揃わないのは
           子孫を残すためにリスクを回避する植物の防衛本能です。
           このような品種は当然市場性がありません。
           しかし家庭菜園としては熟期に達した鞘だけをはずして取るため、
           長い間収穫を楽しめるメリットがあります。
           その日に収穫したものをお客様にお出ししています。
           その他の品種では青大豆として収穫される過程で、
           枝豆としても利用できる極めて珍しい大豆(秘伝豆という品種)。

           枝豆

           常識的に考えれば数年のあいだ肥料を施さなければ、
           土の中にある肥料成分も底をつき、その後作物は何も出来なくなってしまうと思われがちですが、
           無肥料栽培の枝豆には有機農法の時に比べ、1.5倍近い鞘がつくようになりました。



ブロッコリー:8月中旬〜9月】
           意外とこの野菜が鮮度で食べることは一般に知られていません。
           美味しく食べられる賞味期限は収穫したその日のみです。


キャベツ:7月下旬〜2月】
           無肥料栽培を始めてから、
           年を追うごとに葉を食う虫が姿を見 せなくなりました。
           初期生育の時だけ不織布で覆いますが、後は外して育てます。

            キャベツ
           <キャベツと草が自然な形で調和しています。>


野沢菜:11月〜2月】
           漬けものとして冬の期間楽しめる野菜です。


鞘エンドウ:7月〜8月】
           季節の香りを楽しむ野菜として充実感があります。
           エンドウは雑草と混成することによって、雑草からのリーチングの恩恵で健康を保っています。


大根:10月〜3月】
           宿では秋大根(夏に種を播き晩秋に収穫)の作付けをしています。
           夏大根(春に種を播き夏に収穫)は北海道の風土には合わず作っていません。
           8月半ばになるとお客様の食卓に上がる野菜で、
           スーパーで買って来るものは唯一この夏大根だけです(刺身のツマとして)。
           宿で作る秋大根は緻密で絹目のような細やかさを持ち、
           市販のものに比べたら大きな違いを感じます。
           私は大根の味はそこの畑の地味で大きく影響を受ける作物だと思っています。


豆類:通年】
           白花豆などの高級菜豆やササゲ等を含めて6種類ほどを栽培(すべて固定種)。
           とりわけ青大豆(2品種を栽培)は黄色い大豆に比べ、
           コクのある深みと甘味が強く魅かれる大豆です。
           また美幌の農家から手に入れた栗豆は、今では市場から追いやれてしまったものの、
           農家の人が美味しいという理由だけで細々と自家用として畑の片隅で作られてきたものです。
           大切に引き継いでゆきます。
           宿で栽培していませんが、夕張のメロン農家から摘果をもらい受けてメロンの奈良漬けを作ります。


◆F1品種と固定種(在来種)――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 固定種を同じ畑で自家採取して引き継いでいくと、種が育った土の情報を読み込み、
それを子孫に伝えてそこの土地に適応してゆく。私はあえて在来種(固定種)にこだわり、
できるだけ多くの品種を種取りするよう心がけているのは(現在は50パーセントくらい)、
宿の畑で真価を発揮できる野菜を作りたいからです。F1は一代雑種とも言い自家採種が出来ません(違う品種になる)。
スーパーで売られている野菜のほとんどがF1種です。
今は市場から姿を消しているが、昔は優れた在来種がたくさんありました。
それをぜひ宿泊のお客様に味わって楽しんでいただけたらと思っています。
私は在来種(固定種)にこだわるものの、シシリアンルージュ(クッキングトマトとしてかなりレベルの高い品種です。)
のような優れたF1種もあり取り入れてゆくつもりです。
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◆無肥料栽培で育てる野菜の味とは?◆                                     
 私が無肥料栽培を始めてから、野菜や土に対する考え方が大きく変わりました。
慣行農法から有機農法へ移行した時は単なる変化でした。しかし肥料に頼らない栽培になると、
土と作物が本来持つ力を発揮させて育てる農法なので、まったく別の世界に展開して切り替わった感じでした。
そのため実践すると新たな疑問が生じ、相談できる人を探しました。
北海道で無肥料栽培に取り組んでいる農家の人はほとんどいないだろうと思ったのですが、
インターネットで訓子府町に住む秀さんを見つけました。
実は私は15年ほど前に秀さんとお会いしたことがあり、私のことも覚えていてくれました。
当時は有機農法の実践者で、いまでは私よりかなり前から無肥料栽培に取り組んでいます。
農閑期に秀さんを訪ねて実のある話を伺うことが出来ました。
昼頃になったのでお暇をしようとしたところ、「昼飯を食ってゆかないか!」と言われ、ごちそうになりました。

 秀さんの育てた野菜の味はどのようなものか?全神経を集中しました。
食べているうちにホッとする気持ちになってきました。奥様の味付けもとてもよかったのですが、
とにかく野菜自身の味がすごく優しいのです。 食べ終わった時満ち足りた気持ちになりました。
それは現代のグルメの世界とは無縁です。
否時代を先取りした野菜の味と言っていいでしょうか?無肥料栽培の神髄を味わいました。
私も早くこのような野菜を作りたい!
そしてお客様に提供したい!そんな思いで秀さん宅を後にしました。
それから2年後少しは秀さんに近づけたかなという思いです。


        伊藤秀幸さん―――野菜農家で当時から優れたタマネギづくりで定評のある方でした。野菜と対話が出来る方で、

                     【実は私も1度だけですが体験しています。ジャガイモの花を何気なく眺めていたときです。
                     ジャガイモが私に語りかけてきたのです。
                     「もうこの畑は肥料を入れなくても育ちますよ。」と、
                     私が感応しただけでジャガイモが直接そうしゃべったわけではもちろんありません。
                     それがきっかけで無肥料栽培に入っていったのです。
                     その時の感動はとても大きかったです。】

                     秀さんは作物が何を言っているのか日常の生活で分かるそうです。
                     そんな域に達している方ですから、その高いクオリティに感動する野菜が出来るのです。
                     『どっちの料理ショウ』というテレビ番組で「その日の特選素材」で
                     秀さんの玉ねぎが全国の中から選ばれたのもうなずけます。

                                            平成24年

                                            自然農法の宿  あら鷲